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飽きたから

飽きたからです

ランニングの話

走ろう。

何がきっかけでそう思ったのかは忘れたが、走ることにした。



自分には、何かを始めるときには一旦ネットで一通り調べてから始める癖がある。

石橋は叩いて渡る人間なのだ。ストーンブリッジ・アタックである。相手は死ぬ。


しかし、今まではそこで留まってしまっていた。


石橋を叩くだけ叩いて渡れずに居たのだ。ストーンブリッジ・ノンアタックである。相手は死ぬ。



そんなわけで、

来る日も来る日も妄想ランニングを繰り広げる。

想像上は既にフルマラソン完走、いつだってZARD「負けないで」が元気付けてくれたのだ。ありがとうZARD




しかし、現実はそう甘くなかった。

何度「走るか」と考えても実行に移せず、習慣化しないまま俺は22歳になった。


このままではいけない。

調べた情報によると「飯は美味いし風呂は気持ちいいし、夜はぐっすりだし世界が輝いて見えるぜwwwwwwwwwwwwww」マジか。連れて行ってくれ!俺も!まとめサイトの情報を鵜呑みにする俺も連れてって!


初夏、少し生温くなった風にやたらと伸びた髪が揺れる。

走ろう。(『……走ろう。』にするか15分悩んだ)

もうどれがきっかけなのかよくわからないが、走ることにした。


ネットで調べた情報によると、「1km7分ペースが初心者におすすめ」「ゆっくりでも30分は走るべき」とのこと。

それらふたつを照らし合わせると自ずと答えは導き出された。


「4.3km」これが最低目標。1km7分ペースで、30分。


4.3……。「4」は「四」、「3」は「散」……。四散。なるほど。

とんでもなく不吉な数字を突き付けられた。


溜まる疲労、張り詰めた筋肉と上がり続ける心音のBPM

ゴールを目前に、ZARD「負けないで」からはかけ離れた、恐らく人生最速のビートを刻む心臓は、しかしながらその活動を止めてしまう。

と同時に、


ゴ、とも、 ド、ともとれる轟音が耳をつんざき、

次の瞬間、俺の身体は宙を舞う。

音の続きが耳に入った時、それが爆発音であることを認識する。

反射的に音のした方向を見ると、既に自分の立っていた地面は炎に包まれていた。

爆発四散。もう身体とは呼べない代物。ああ、次の世界ではもっと上手くやらなきゃ、な………。


………………

………

……



ということか。まじか。


実際のところ、4.3kmってどれくらいだろう? 

すごい本格的な格好してランニングしてるお婆ちゃんとかよく見るけど、あの人たちは何kmくらい走ってるんだ。

4.3km? Ahan? なめてんの? 走るという行為をなめてんの? ランニングのランとはつまり乱、戦国の世を生き延びてきた私たちの世界にそんな覚悟で足を踏み入れるつもりなの?

ってなる?

急に怖くなってきた。走るのって怖い。


けれどまずは行動、足を踏み出さねば何も始まらない。ランニングとは足を踏み出すことから始まるのだ。そしてそれは人生も同じだ。


走ってる最中の話は「走ってる」しかないので割愛。

そして俺はなんやかんやで4.3kmを走った。

完走するその瞬間、警察が自転車で並走しながら「どこ行かはるー?」「何か身分証とか持ってますー?」って言ってきた。

耳に付けたイヤホンから流れるZARD「負けないで」はラスサビに突入していた。