ニッ記

基本的に嘘です

廃工場の話


廃工場の写真を撮り始めたのは、19歳の頃だった

自宅から歩いて数分、古惚けた工場
僕が小学生の頃には既に使われてなかった気がする
もしかするとそう見えただけかもしれない
かつては人の為に稼動していただろうその工場は、
忘れ去られ、ただ錆びて、埃を積もらせていた

どうしようもなく魅力的だった
過去に存在していたはずの人々の生活
その日々の残り香が薄っすらと膜をはっている
感じたこともないほどの郷愁に、
僕はすぐに夢中になった

よく見れば、こういう場所にも人の出入りはあるらしい
地元の若者だろうか
ガラスが割られていたり、壁に落書きがされていたりする
亡き物とされた空間を、所有者のいない領土と受け止めるのだろう
もう一度息を吹き返させようとするように、
或いは改めて息の根を止めようとするように
若者はその場所を受け継ごうとしていた

光の射し込む廃工場に独りで立っているとき、
僕は世界が閉じたような感覚になる
世界にたった独りでいるような
何とも不思議な感覚になる

自宅の近くに工場が無ければ、
僕は一生そんな感覚を知ることも無かっただろう
人生は簡単に変わってしまうし
人間は簡単に曲がってしまう

僕は囚われてしまった
錆と埃にまみれたその箱に、
その過去に想いを馳せるということに

とはいえ、
素晴らしい人生だと言えるのではないか
やりたいことをやって生活が出来ているのだ、
恐らく上等なものだろう

あとは結婚さえ出来ればな、
などという戯言でこの日記を締めることにする

雨が止んだので、少し外に出ることにする